猫誕おめ!
てことで、去年の今日、猫の誕生日に猫に送った猫リクのおせっせを投下。
『雪の騎乗位が見たい』ってことで、恥ずかしがりな雪とエロボキャ貧の私にはなかなかの難問だったけど、色々とご都合主義を利用して、ワリとノリよく楽しく書かせて頂きやした。
猫よHappybirthday!
騎乗位って、いいよね!!
「結膜炎だって?」
「うん。」
「こんな時に言うのもなんだが、眼帯に片眼鏡って正直笑えるな。」
「…ほんとにこんな時に言うのもなんだよね。」
人が気にしてることを。
コンタクトつけられないんだから仕方ないじゃないか。俺は、目の前の双眼から不細工な顔を背けた。
【シークレットショーは帳の中で】
「メガネの方がいんじゃねーの?」
「許しがたい程ダサかった。」
「どうせ家にいんだから誰に見られるわけじゃなし、いいじゃねーか。」
お前に見られるのが一番嫌なんだけど?
口を開きかけたところで片眼鏡をとられた。
「ちょっと、」
「なんか仕事みたいで嫌じゃねぇ?」
「それはそうなんだけど」
まずい。本当に見えない。
判然としない世界に、ぼやけた金色だけがゆらゆら動く。
「久々だな、こういうの。最後にかかったのいつだっけ。」
「そんなのいちいち覚えてないよ。」
「昔っから目ぇやられやすいもんなぁ、お前。けど、いつも右じゃなかったか?」
「そう、だから今回はさすがに不便さを痛感してる。」
「よりによって見える方だもんな。」
「まあ今回はただの結膜炎だから大丈夫だと思うけど、こっちまでクセになって目悪くなったらって考えると、…ちょっとだけ憂鬱。」
「そんときゃ左も度入れるんだな。」
顬を通る感触に、スっと眼鏡がかけられる。
途端にクリアになった視界で、にんまり顔がまず目についた。
「変でしょ。」
「あぁ、すっげぇ笑える。」
「……」
「けど、そっちのが楽なんだろ。」
そりゃあそうだけど。
「嫌ならさっさと治すんだな。」
いつもより幾分狭い世界の中。不敵に笑う彼だけが、いつもと変わらぬ輝きを誇っていた。
「今回はどれくらいかかりそうなんだよ。」
「概ねいつも通りかな。仕事も、眼帯が外れるまでは出てくるなって言われたよ。確かに運転は出来ないけど、今回は感染する系のものじゃないから他の仕事は出来るって言ったのに、あの人」
『そんな見苦しい姿を当家においでになる客人に見せるつもりか。いいから出てくるな。』
「だってさ。」
「霧雨さんなりの優しさだろ。」
「あの人の場合本音と建前の区別がつかない。」
それになりより、
──…。
時間を持て余すんだよ、こういう時。
あと三日もあれば家中ピカピカに出来るのではないかという勢いで普段出来ない隅の隅まで掃除の手を入れ、俺は息を吐いた。
雪は普通に仕事だし。こっちにずっといられるのはいいのだけれど、身体が健康な分何かしてないと落ち着かない。たまの休日とわけが違い、家事にも限りがあるし、今からこの調子で暫くどう過ごしたものか…──。
「しなくていい。」
「え、」
なんとも微妙な顔でそう言われた。
帰った雪と食事を済ませ、昼間洗濯した雪の仕事着を、明日の為に出したところだった。
「飯の支度とか、こういうの…俺が帰ってからするからお前は別にしなくていい。」
「なんで?」
いつもはそんなこと言わないのに。
休みの日にいつもしてることを、いつも通りしただけだった。
「お前仕事休んでここにいんだろ。だったら無理しないで、休むことに専念しろ。」
「休む、たって体は元気だし、無理なこともしてないけど。」
「いいから。その状態で危ないことすんな。」
「……。」
──…なんか、
心配、かけちゃったかな。
そうは言われたものの、何もしないでなんていられるわけもなく。昨夜言われたことを思い出しながらも、俺はいつものように夕飯作りに勤しんでいた。
それにしたってなんで急にあんな。そういえば、昨日は帰ってすぐも同じような顔をしていた。
別に、片方が見えないからといってそこまで見えにくいわけじゃない。確かに遠近掴みにくい所はあるけれど、誤差の範囲だ。危ないことも、無理なこともないんだけどな。
と、思った矢先のことだった。野菜を切っていた包丁から、魚用に使っている包丁へ持ち変えようと手を伸ばした。考え事をしていたせいもあり、今見えている視覚と実際の距離、遠近の補正が覚束ず、あ、と思った時には、人差し指の先にピリ、と一瞬の痛みが走る。
…やってしまった。
じわ、と赤が滲むと同時、手が濡れていたせいもあり、それは瞬く間に範囲を広げ、ぼたぼたと予想以上にまな板の上を彩り出す。
これは反論出来ないな、と苦笑し、手を洗うべく蛇口を捻ると、ふとその手の横から小指にかけ、なにやら赤い筋のようなものが目についた。
あれ、いつの間にこんな。
よくよく見れば、その筋の中央は僅かにだが白く膨れ、それが水ぶくれであることが見て取れる。
…火傷? でもいつ…
記憶を遡り、あ、と思い至る。それが、昨日アイロンをかけた時、今のように掴み損ね、軽く触れた時に出来たものだと気づいた時、
俺は自分の失態と雪の真意に漸く気付き、深く、大きなため息を吐いた。
これはダサいな…。
───…。
「お前はほんとに」
「……」
「俺の言うこと聞けよ!」
帰るなりのお説教タイム。
隠そうとしたこともオプションとして付与された。
「おまけになんか昨日のとこ酷くなってるし。」
あぁ、やっぱりこれのせいか。
「ちゃんと冷やさなかったのかよ。」
「それが、気づかなくて。」
「はあ?」
雪は開いた口が塞がらないようだった。
「そ…、おま…、」
「ごめん。」
「──っ、……いや、それに関してはちゃんと聞かなかった俺も悪かった。」
言いたいことはまだまだあるようだったが、握り締めた拳を震わせ雪は言葉を飲み込んだ。
「痛くねぇのかよ。」
「うーん、意識して漸くちょっと痛いかも。」
「っとにお前は人には色々言うくせに」
「今回ばかりは何も言えません。」
「勘弁してくれよ、ほんと。」
頭を掻きながら、雪が目を伏せる。
「お前のそういうとこ…危なっかしくて気が気じゃねぇ。」
「…ごめん。」
ごめんね、ともう一度謝ると、雪から徐々に怒気が消える。肩落とす俺に、雪の声音はまるで、子供でも宥めるみたいに穏やかだった。
「明日は、俺も休みだから。」
「うん。」
「医者行くんだろ。車出す。」
「ありがとう。」
「俺がいるうちはぜってー危なっかしい真似させねーかんな。存分に暇してろ。」
先程まで説教を受けていた身でこんなこと思うのは不謹慎なんだろうけど。
その説教すら含め全てが嬉しい…なんて、
言ったら君は怒るだろうね。
───…。
「…っ、…なぁ…」
「ん?」
「それ、外せよ」
服の隙間から差し入れた手を敏感な脇腹に這わせていたところでそう言われた。
僅かに顎を上げ、それ、と云うのは自分のかけている眼鏡を指していて。
「でもこれないと本当に見えないから。」
「だったら尚更外せ。」
「あ、ちょっ…と!」
束の間の抵抗。からの攻防戦。しかし決着は早く、あれよという間に一昨日同様、俺は眼鏡を奪われていた。ムキになった愛らしい顔を脳裏に焼き付けている場合ではなかったろう。
「返して。」
「やだ。」
「本当に見えないんだって。」
「お前にゃその位でちょうどいい。」
何もよくない。
何度だって言うが本当に見えないのだ。明かりひとつない部屋の暗さも相まって、使えない右目が映す景色はぼやけるなんてものじゃない。
「それが無理なら今日は諦めるんだな。」
不敵に笑う、気配が分かる。
その挑発にムッとして、俺は目の前でにやついてるであろう口をキスで塞いだ。
「っ!?」
筈だった。
「っ…ふっ、」
触れるだけで終わったそれは、すぐにどちらからともなく離され、雪の口から吐息を漏らし、
「っく、あっははははは!」
「……」
次の瞬間、ベッドの上ではまず聞かない程の爆笑に、俺は手で顔を覆う羽目になった。
「っ…ふ…おま…、そこは口じゃねーよ」
「言わないで」
それくらい、感触で分かる。
でも結構惜しかったと思うんだけど、なんてことは言えるわけもなく。肌から伝わる振動が治まるのを、俺はただただ待つしかなかった。
「っはー…もう今日は諦めて寝たらどうだ。」
「その上まだ追い打ちをかけてくる。」
「俺の腹筋がもたねーわこれ。」
「俺だってこれ以上笑われたくないよ。」
「拗ねんなよ。」
誰のせいだと思ってるのか。
ベッドの上で相手に笑われる精神的ダメージを考えて欲しい。みっともないと思いつつ、自分でも分かる程度にむくれていると、雪は「しょうがねぇなぁ」と苦笑した。
「お前、ほんとに見えねーのな。」
「だからずっとそう言ってるじゃないか。」
「そっか…」
「……」
「……」
「…?」
そこで雪は急に沈黙した。
暗闇の中に静寂が顔を出す。
うん?
「だから雪、眼鏡返して。」
「それはダメだ。」
どうしろと。
ならば結局のところ今日は大人しく寝ろということか。と、淡白な恋人の辛辣な断りに肩を落とした時、
「…俺が、……から」
「──え?」
たどたどしくらしくもないか細い声に、俺は俯きかけた顔を上げた。
「今日は、その…全部、俺がしてやる。…だから」
「……」
「お前は黙って見てればいい。」
わざとなのか。天然か。
だから見えないんだって。
しかし、今日ほど自分の視力を呪ったことも祝福したこともなかった。
───視覚により得られる情報というのはやはり重要で、且つ絶対的な割合を占めていて。そういうものは大抵、失ってから初めて気付かされることが多い。
「っ、…雪」
「……」
「ほんと…どういう風の吹き回し?」
「………うるはい」
零れる息が酷く熱い。
俺は勿論、けれどそれは雪にも同じことがいえた。
短くもない付き合いの中で、雪からの奉仕を受けるのなんて数える程。しかもそれらは皆、満足に行為に及べないような状況下で俺が一方的に盛ってしまい、それを鎮めるべくやむを得ず、といった体でしてくれることが大半で、こんな…
こんな行為の一環として、雪の方から咥えてくれるなんてことは未だかつてなく、そんな貴重な光景をなぜ俺は見ることが叶わないのか。天国で地獄の所業を受けているような感覚に俺は眩暈を覚えた。
そもそもに、それを今の俺に見ることが出来ていたならこんな展開にはなってないだろう。恥ずかしがりの恋人が、こんな願ってもないサービスをしてくれるのは、普段から毎度、何度だって拒否してやまない自分の痴態が見られることがないから。なのだろうから。
ペロペロと犬猫のように這わされていた舌が一度離される。触れる外気に、下がる温度。と、瞬間、それを一瞬で塗り替える熱に全体を包み込まれ、俺は息を詰めた。
「ン…ッ」
「!…ふ、」
俺につられるように、雪もビクリと反応する。
視覚が奪われているせいで感覚が研ぎ澄まされているのか、咥内が、心なしかいつもより熱い。
「ゆ、き…」
ずりずりと舌でいいところを擦り上げながら奥まで迎え入れられる。
「それ…気持ちぃ」
「…っ」
手を伸ばせば触れる髪に、そこをくしゃりと撫でれば雪が息を呑むのがダイレクトに伝わった。
たどたどしい愛撫が徐々に早く、大胆になる。根元を指で、先端を舌先で擦られ、どうしたって堪えることのできない体液を啜るように舐められると、腰が甘く痺れ、ゾクゾクと背筋が戦慄いた。
今までして貰った回数から云っても俺が彼にするよりよっぽど機会は少ない筈だが、意外なことに、雪はこの手のことが決して下手ではなかった。それどころか、少ない経験の中で一度一度上達していくのが回を重ねる毎にみてとれる。手付き自体はおずおずと、といった感じだが、的を射た指遣いや舌遣いに、恐らく本人は無意識なのだろうが、それが“模倣”したものであると初めて気づいた時、それはもう、正直興奮を禁じ得なかった。更には俺の反応を探ってのことなのか、意外とこっちの方もセンスがあるようで、段々と自分がするものとは違う、当然彼とも違うポイントを見つけるようになっていて。愛しい恋人にされるというだけで熱の上がる行為は、そんな技巧も相俟って俺を翻弄し、気を抜けばすぐにでももっていかれそうなくらい
「…なぁ、」
「ッ、ん?」
「なんか、あんまよくねぇ?」
「え?」
全体を包んでいた熱い感触が離される。
恐らく自分を見ているであろう彼の上目遣いを、見れないことが口惜しい。
「どうして?」
「だってお前、全然…」
拗ねたような口調に、僅かに不安の色が乗る。
思わず口許が弛みそうになるのをぐっと堪えた。
「…雪」
「あ?」
呼びかけて、パクパクと口を動かす。発してもない聞き取れない言葉に、「なんだよ」と近づいた彼の体をぐいと引き寄せ、
「!わっ」
「イくなら君の中がいい」
「!?っな…」
「と、思って…結構必死で我慢したりしてたんだけど?」
雪がどこまで付き合ってくれるつもりなのか分からない。俺がイって、スッキリしたろ、はい終わりって可能性も充分あると思った。それじゃあまりに勿体ない。かえって俺のフラストレーションを煽ったこと。本人はまるで気づいてないだろうけど。
ここまできたら最後まで付き合って貰うよ、雪。
乾いた唇をそっと舐めた。
「ば、バカかお前。」
羞恥に染まった顔が見たい。
「そんなんで我慢とか、意味わかんねー…」
「雪は我慢が苦手だからね。」
「っ、るせー!」
ポカリと頭を殴られた。
恥ずかしがりな暴れん坊を封じるべく、抱き締めてやろうと更に引き寄せれば、待ったと言わんばかりに手が胸に置かれ、不服に顔を上げた俺に、
「……ゴム」
と雪は短く言葉を発した。
「…え」
「…から、ゴムつけてやるから、離せ、一旦。」
「……。」
夢、かな。
あまりに都合のいい話だとは思っていたけど、これまでのあれそれも、今の状況も、さてはずっと俺の見てる夢に過ぎなかったのかな。正直、そう考えてしまった方が合点がいくのが悲しい。し、虚しい。もしほんとにこんな夢を見てるんだとしたら、思春期まっさかりの中学生か、と嘆かわしくさえ思えた。
俺が暫し思考を余所へ飛ばしている間に、雪は俺の部屋着のポケットを漁り、一つはとりあえず入れておいてるそれを取り出す。
「雪、雪」
「何だよ。」
「もう一回俺を殴って。」
「はぁ?何だよ気持ち悪い。」
「そうすれば多分覚める。」
「意味わかんねーし。」
そうこうするうち局部を覆った無機質な密着感。
上がる呼吸。見えない表情。再度俺に跨ったらしい雪からも熱っぽい吐息を感じ、雪が腰を上げた気配に
「! 雪」
俺は思わず制止をかけた。
「…んだよ、」
「慣らしてない。」
「……。」
「傷、ついちゃうといけないから…とりあえず、こっち」
「いい」
「え?」
「少し、慣らしたから…、…多分、大丈夫だろ」
見えない顔を凝視した。
「…いつ、」
「うるさい。」
「ねぇいつ解したの!?」
「チッ!」
舌打ち!?
「─ッ!」
「いいからテメーは黙ってそれおっ勃ててりゃいーんだよ」
…なんでキレてるの。
頭を鷲掴まれた衝撃に脳が揺れる。
ドスのきいた低い声に恫喝され、俺はそこで押し黙るほかなかった。
「今日は、っ…俺がしてやる、つったろ」
「…ゆ、き?」
「たまには俺にも主導権握らせろよ」
夢じゃなかったらお酒だろうか。
でも今日は一杯ひっかけた程度だ。
「動いたら…殺す」
およそ行為中に恋人が吐くとは思えない物騒な台詞を零して、雪の腰が徐々に落とされる。
再びそこに触れた熱に、それが少しずつ呑み込まれていく感覚に、ぐっと手足に力がこもった。
「──っ、」
「ッは…っ…」
確かに、少し慣らしはしたようだ。…けど、
その窄まりは、いつもよりずっとキツい…
「ぁ、…ッ雪、それ…ッ」
「ッ、いッ」
「!ゆ、雪っ」
やはりこれでは傷がついてしまう。
慌てて待ったをかけ、一旦抜こう、ちゃんと慣らそうと提案するも、雪はそれを聞き入れようとしない。なんだって今日はそんなに意固地なのか。
「今更めんどくせぇ。」
「俺がやるから。」
「ダメだ。」
「なんで」
「お前はいてーのかよ。」
「俺は大丈夫だけどそれより雪が」
「お前が痛くないなら」
「ッ、ちょ」
「問題ない、…っ」
あるって。
そのまま挿入を再開し出した彼に、俺はかぶりを振った。
全く痛くない筈はないだろう。自分で言うのもなんだが、彼の身体は彼以上に熟知している。自信がある。日頃から痛いことはすんなと自分で言ってるくせに。俺だって、痛い思いをさせてまで君を抱きたいわけではない、のに。
「んン゛ッ…ッ」
呻くような声に耳を塞ぎたくなる。は、は、と短い呼吸と共に、強引に腰が押し進められた。
痛くないかとの問いに、俺は確かに大丈夫と答えた。しかし、半端に慣らされたそこはいつもより大分狭く、寧ろこちらにとっては別の意味で危うくて…
「雪、ちょっ、と、力抜いて…」
「ッわかっ、てる」
分かってはいても身体の方はままならない。
そんなの、今自分だってそうなくせに。無茶なことを言う俺に、それでも必死に力を抜こうと息を吐き、後ろを何度も収縮させるその様に、かえって欲を煽られる。
愛おしさが、募る。
「は、くそ、…ッ、ぁ!?」
手を伸ばせば触れる体温。
…腹。
ではそこから下へ、と。
「な、っ、お前は、触んな…ッて」
「…力を抜く、だけだから」
やっぱり、萎えてる。
「ッ、ッ…!」
触れる体温。詰まる息。
徐々に強張りをみせる熱に、やめろと言わんばかりに手首を掴まれたが、お構いなしに指を絡ませれば、思惑通り雪の体からは力が抜けていって。
今日初めての直接的な刺激にその身を震わせる。身体から緊張が解けていくにつれ、閉じていたそこも重力に従い少しずつ高度を落としていき、
「ッ…ぁ、…はいっ、た…」
吐息混じりにそんなことを言うものだから、思わず
「…雪、エロ過ぎ…」
──ゴッ!!
「いッ!た」
「人を淫乱みたいに言うな!」
「違っ、そうじゃなくて」
手探りで暴れる手を掴む。
「雪がこんなことしてくれるなんて、夢にも思わなかったから」
まだ夢の可能性も捨てきれてないけど。
「嬉しい、し…正直興奮してる。」
「そ、そうかよ…」
「ねぇ雪? 俺に動くなってことは、これで終わりじゃないよね。」
「…っ」
本当は、滅茶苦茶に動いて身も世もなく啼かせたい。
でも、今の雪にそれはあまりに勿体ないし、酷だから
「…お前は、動くなよ」
「ねぇ、さっきも思ったけどそれってフリ?」
「ちげーよ!バカ!」
おずおずと、雪が自分の体を持ち上げる。
「いいから、も、黙ってろ…お前」
そこからゆっくりと落とされた腰と、振り払われた手が腹の上でぐっと力を込めた感覚に、俺は息を呑んだ。
まさか、本当に動いてくれるなんて
「ね、ほんとどうしちゃったのさ、今日」
「ッ、ふ、…黙れ、ってのに」
「いくら俺の目が見えないからって」
「…うるせーよ」
「何か悪いものでも食べた?」
「うるせーよ!」
近づく気配に、
ガリッと強く首を噛まれた。
「なんか文句あんのか。」
「あ、りません。」
けど、そんな挑発地味た真似。正直今は勘弁して欲しい。
「…ッは、ッ」
鼓膜に響く、上擦る声。緩慢な動きが神経を焼いた。
ただ体を揺らすだけの幼稚な行為に、馬鹿みたいに欲を煽られて
「ン、ッなぁ、…気持ち、いか?」
「っ…」
気が狂いそうだよ。
バカ。
「雪は、ズルい」
「え、」
自分は聞いたって答えてくれないくせに。いつだってはぐらかすくせに。
自分はそんなことなどお構い無しにそういうことを聞くんだから。
「──いい、よ。」
それでも君を不安にさせたくはないから、口許に笑みを浮かべ、素直にそう答える。「そ、か」となんともいえない反応に、不意に切なさが込み上げた。
「ねぇ、雪は?」
「は…」
「もう痛くない?」
俺だけがよくても
「無理してない?」
それじゃ虚しいだけだから。
最初よりは目が慣れてきたのか、暗がりにぼんやり滲む輪郭に手を伸ばすと、触れた頬がびくりと跳ねた。その、俺が触れたのとは逆の方へ顔を背け
「別に」
小さく声が絞られた。
「無理なんか、してない。」
「…そう」
「痛いとか、今更そんな」
「なら雪も、ちゃんと気持ちいい?」
「っ──」
雪は言葉を詰まらせた。
「そ…、な…」
言葉にならない声を発して、触れた顔が俯かれる。
…顔、顔が見たい。
聞いたって答えてくれないのなんて分かってる。それでもいつもは、表情だったり、反応だったり、目に見える全てでいくらでもそれを感じることが出来るのに。
自分なんかの不具を憂う日がくるなんて思わなかった。
見えないことが、こんなにももどかしいなんて。
頬に触れたままの手が、その顔と共にフッと持ち上がる。なにやら歯を食いしばるような感覚と、不意に触れた手の温度に、自分の手を包まれ、
「…?」
そこから再び縦に首を落とし、今度はすぐさま、しかしおずおずと持ち上がった顔に、思わず見えない目を見開いた。
「──…」
「……」
「…ゆ」
「俺は」
遮る声は震えていた。
「お前ほどあけすけに、そういうの言えねぇ。知ってんだろ、俺の性格。まして、…俺はその、…こっち側だし」
「……。」
「そういうの、未だにグダグダ気にしてんの、カッコわりーって分かってんだよ。みっともねーって。…けど、言えねぇだけで、…別に、その…嫌とか、そういうんじゃ…」
最後は本当に、聞き取れない程尻すぼみになった声が、暗がりへと吸い込まれるように消えていった。
「──くそっ」
「!?ッ…」
「いいからっ、さっさとイけよ、お前は」
俺に対してか、自分に対してか
捨て鉢の様な悪態と共に再開された律動。
荒い息を零し、ふたりの呼吸が混ざり合う。
全てが、闇に溶けていきそうだと思った。
「雪」
「ん、ぁ?」
「予てから言ってる下剋上をこの機会に、とは思わなかったの?」
「フッ、なんだよ、抱かれたかったのか。」
「そうじゃないけど」
「ろくに見えねーヤツをここぞとばかりに、なんてフェアじゃねーだろ」
「雪らしい」
「それにっ、こうやってお前見下ろしながら好きに動けんのも」
「……」
「これはこれで、なかなかにいい気分だと、思ってな」
からかうような笑声が、目の前で楽しげに零される。
「…ッは、いいツラするじゃねーか」
「っ…」
「なぁ、
時雨」
熱っぽい声に、呼ばれた名前。
理性なんて、一瞬で焼き切れた。
「ッ、お゛!?」
「ね、それわざとなの? さっきから、さ」
「ッァ、ぁあ!? や、な、何、なん、急に…ッ」
驚きと困惑。悲鳴と嬌声。
突如として予告なく自ら動き出した俺に、雪はまるで溺れそうになるのを必死でもがくように俺の肩を強く掴んだ。
「やッ!あッ…お、前はッ、ぅ、ごくな、ってぇ」
「ごめんっ無理」
「はッ、ッ、はぁ?」
「後で、いくらでも殴られるから」
「ン、!うぅッ、ッふ」
「今は…っ」
俺の好きに───
余裕なく吐き捨てると雪の抵抗が弱くなる。
散々人を煽ったくせに、逃げを打とうとする身体をその腰抱き寄せ揺さぶると、歯を食いしばっても尚耳元で漏れる荒い吐息が、媚薬のように自身を苛んだ。
「ふッ、ッ…ッ」
「雪、さ。ずっと当たらないようにしてたみたいだけど、自分のいいとこ、ちゃんと分かってるでしょ」
「──!? やッ」
察しのいい反応に、口角が上がったのは無意識だ。
「ッひ、ぐッ…ッ、ぅあ」
腰を持ち上げ、身を引いて、腹側の浅い所をぐり、と抉るように擦る。瞬間、びくんと震えた身体が、肩にガリッと爪を立てた。
「ッぁ、ッ…そ、こ、っやめ」
「なんで?よくない?」
「あッ、ッ…おれ、はいい、っから」
そんなこと言わず
「よくなるなら」
「はッ…ア!?」
「一緒に」
手で辿り、前の昂りに指を這わせる。先程とは打って変わり硬度を保ち、熱い滴を零すそれに安堵して。指を絡ませれば、強い快感にがくんと力なくのめった雪の頭が肩口に埋まり、いやいやをするように髪が鎖骨を擽った。
「まっ、いや、ッや、だっ…て、それぇ」
震える熱を上下に扱き、腰の動きを揺するだけのものから深い突き上げへと変える。小気味よく奥を責め立てると途端に声を詰まらせ、痙攣し出した雪が逃げのつもりか、さっきの名残りか、こちらの動きに合わせ弱々しくも腰を揺らすものだから。
恐らく無意識下であろうその行動に、頭の中が、痺れるように戦慄いた。
「ンッッ、…ッ! ぁ、…ッも」
「ん、雪…、俺も」
「───────…ッ!!!」
「ッ…」
二人ほぼ同時に、精を吐き出す。
絶頂の折、衝撃から逃れようと離れた体が、俺の肩へ再びくたりとその身を預ける。
湿った息遣いが、暗がりではやけに顕著に感じられた。
暫くはお互い、そうして甘い余韻に浸っていたのだけれど……
「───い、たたたたたた、痛い、雪、痛いっ」
「後で殴ってもいいっつったよな」
「殴ってないしそれ、ていうか髪はやめ…っ」
「折角俺がたまにはって!なのに!お前!!」
「ごめんて雪、ごめん」
正直、もどかしさでおかしくなるかと思ったけど。
そんなことで雪の機嫌を損ねたくはないから、「嬉しかった」「ありがと」「我慢出来なくてごめん」と矢継ぎ早に真摯な気持ちを伝えると、多少怒りが治まったのか、雪が「ふん」と手を離す。
「ねぇ雪、もう一回。もう一回チャンスをくれない?」
「いい根性してんなテメェ」
「次はちゃんと我慢するから」
「ふざけんな、二度はねーよ。」
「でも、明日は雪も休みだし」
あんな風に火をつけられて、ただの一度で満足出来るほど、枯れちゃいないし、冷めてもない。
「雪が動けないっていうなら仕方ないけど。その場合は、…まあ、いつも通りだね。」
「……っ」
言いながら、雪の腰に添えたままの手をそ…と動かす。一度達して敏感になった身体がぴくりと震え
「…お前、ほんっといい根性してるわ」
諦めのように吐かれた嘆息に、思わず笑みを零す。
そういう雪の甘さだって、大概
「ついでといったらなんだけど、そろそろ眼鏡の方も」
「それは却下っ」