調子にのって、続きましたよ悪魔パロ。
もなかさん、続きを望んで下さってありがとうございます((泣
とは言ってもぶっちゃけヤってるだけです。
だって悪魔ユキが性の癖の塊なんだもの。
この世界線における雪の処女喪失(初おせっせ)
初めてだから結構啼かされちゃってんなぁ。
それと前回の『アリアドネ〜』も修正したのですが、神父時雨の一人称は一貫して『私』にします。どうでもいって思うかもしれませんが、修正したので一応ご報告をば。
生きている以上生き物は皆、身体を保つ上での『栄養』というものが不可欠になる。
それは一般的に『食事』として摂取され、種族によって多種多様。人間にとって毒となる成分を糧とする生き物もいれば、喰う側喰われる側、何がその命にとっての血肉になるか、一般常識では図りきれない。
生という概念が曖昧な天使や悪魔や神だって、その存在に始まりがあって終わりがある以上、当然等しくひとつの命であり…
それは彼とて例外ではない。
悪魔も『食事』が必要だ。
「いらねぇ。」
「どうして?」
「……。」
「君の場合、クッキーを美味しいとは感じても、それでお腹は満たされないでしょ。」
「…からってこんな…」
「私はあまり血の気が多い方じゃないからね。」
「だったら別にいら
「ダーメっ。」
「っ…」
「主の言う事は聞くものだよ。」
そう言って、神父は悪魔の鎖を引いた。
【それを堕落と云うのなら】
『───ねぇねぇアクマってさ。本当はヒトが、
好きなんじゃないのかな。』
ミサの終わり。貰ったクッキーを食み、その日に読んだ聖句の、悪魔の記述を指でなぞりながら、呟いた少年のその言葉に、神父は笑顔で問い返した。
『ほぉ、それはまたどうして?』
まだまだ純真無垢な瞳は、いつも遊んでくれている相手が悪魔であることを知る由もない。
『だって、すぐ人間にちょっかいかけてくるし、願いを叶えるかわりに“たましい”をよこせってさ』
『……』
『だって“たましい”って、キレイでとーといものなんでしょお?』
…あの時の神父としての解は、笑顔で答えた「そうだね」で合ってたろうか。
シグレはその時のことを思い出し、不意におかしくなり自嘲した。
───違うよ少年。それはおかしい。……だって、
人間ほど欲深で、穢らわしい魂なんてないのだから。
「───…?」
とさ、と身体を押し倒すと、本来悪しき存在である筈の彼の瞳は、無垢な幼子のように不思議そうに、自分を押し倒した相手を見上げていた。
「シグレ?」
「……」
「何」
『食事』…だったんじゃなかったろうか。
ユキは、いつもと違う手順と神父の雰囲気に首を傾げた。
───いつも通り、大変不本意ではあるが、こいつの前に膝をつき、こいつの性欲処理と、自分の食事、双方の利を叶えるべく仕方なく、屈辱的な行為を甘んじてやろうと腰を落とした。本来人間の(自分の場合は契約に縛られている為この男以外の選択肢はないが)血や身体の一部などを持ってして力を得る、所謂悪魔にとっての食事だが、血の気の少ないこの契約主からは始めに一度血を貰ったきり、その後貧血に伏した様に、これは食うに苦労しそうだなと思ったものだった。
が、それ自体は別にどうでもよかった。元よりこの悪魔は、食わないことには慣れきっていた。しかし、それを是としなかったのが他でもない、目の前の主様だった。
『要は人から出るものであればなんでもいいんだよね。』
いいわけねーだろ。淫魔じゃねんだぞ。そうは思っても悲しいことに、理にはかなっているのだ。悲しいことに。
それからは、普通『食事』とは呼べない行為を変態主に強要され、大変不本意ながら、仕方なく、これも使い魔になってしまった者の務めだと言い聞かせ、なんとかやってきたのだが
「ま、待て待て待て待て、どうした急…っひ!?」
「…前から思ってたけど、ユキって敏感だよね。」
「はぁ!? …ッ、ン、何…」
「咥えて貰ってる時とか、ちょっと耳とか指先が触れるだけで反応するし」
「っ、そ、れは…」
お前が変な時、変なタイミングに、変な手つきで触るからで…っ
とユキは思ったが、まさにその“変な”手つきで腹を撫でるシグレの手の感触に、思うように言葉が返せない。
「純粋な興味なんだけど、悪魔って生殖機能あるの?」
「ねぇよ!」
色欲や淫奔を司る悪魔ならともかくとして、普通の悪魔にそんなものはない。自分たちのような存在は、いつの間にかそこに存在し、役割を果たせなければ消えるのだ。
「君たちは大概人の形を模してるけど、それも習性? 身体の作りは細部まで一緒なのかな? 人の食べ物も、嗜好品としては食べるみたいだけど排泄は? 悪魔は自分の欲に忠実な筈だけど、性欲とかって溜まらないの?」
「ちょ、ちょっと待てよ…、何…急に…」
「もう一つ。」
「っ!?」
「君らの食事って、もしかして口からじゃなくても摂れるんじゃない?」
「……え、」
ぬるま湯に浸りすぎて、ユキは忘れていたのだ。
この人間は、悪魔よりよっぽど悪魔なのだということを。
「──っハ…、そこらの生娘よりよっぽど凄いな。」
「ッ、っ、…ッ」
「あぁこら、啼いていいって言ったよね。」
「!?ッぁ、ぁあッ、しっぽ…は…っ!!だっ、めっ、だめっ、ひぅ、っく、ン!」
「耳もダメ、羽根もダメ、角もダメ、尻尾もダメじゃあどこならいいの?」
「ッン、ぅう、アっ、っぜ、ぜんぶだ、めぇ…っ」
「『全部イイ』の間違いでしょ。」
「っだ、やだ、ソコはほんとにっ────ッも…!」
びくびくとユキの身体が震えた。
内壁の収縮に、先程からなおざりになっていた自身を強く締めつけられ、シグレも息を詰めながら、促されるまま吐精する。
「ぁ…、ぁ…、は…、ッ」
経験したことのない絶頂がユキの神経を烈しく灼く。高みから降りられない身体を追いかけるように、精が中へと注がれた。カタカタと痙攣するように鳴る歯も、全てを搾り取らんばかりにうねる内壁も、断じて本人の意図するところではない。
じわりと広がる腹奥の熱さにユキの目が大きく見開かれ、口からはツ、と唾液が零れ、流れるままに顎を伝った。
「美味しい?」
濡れた顎を取り顔を上げさせると、すっかり放心した蕩けた瞳と目が合った。みるみるうちにその眼が、羞恥と、快楽と、それから怒りによって細められ、涙を滲ませシグレを睨む。
美味いわけねーだろ。と、そう言ってやりたいのに、身体を襲う倦怠感と、未だ自身を苛む余韻に邪魔をされ、ユキは重怠い口を閉じる。
中に出された体液は、もう半分ほど消え体内に吸収されていくのが分かった。
「問題…はないみたいだね。」
くすりと背で笑う気配。
ユキにゾ、と怖気が走った。
「あ、くまと自ら交わる人間なんて、聞いたことねぇ…」
「それはそれは光栄だね。」
「っ…こういうの、お前らは“番”とやるもんなんじゃねーのかよ。」
「……君はほんと、悪魔のくせにつまらないこと気にするよね。」
シグレの手が、不意に契約の鎖を掴む。
「っあ!?」
ぐ、とそれが強く引かれ、挿れられたままの深まる繋がりに、ユキが目を見開いた時───
パッ…と何かが音を立て弾けた。
「え」
瞬間、突然支えを失った感覚に、ユキの身体が崩れ落ちそうになる。
「おっと」
シグレがその手を取り支える。ユキは、起きた現状がすぐには飲み込めず、今度は戸惑いに目を白黒させた。
「な…で鎖…」
「あれ、もしかしてあった方が好みだった?」
「!っなわけ」
「私は別に嫌いじゃないけどね。…こういう時、こういうのは無粋かなって。」
独り言のように落とされた言葉は、淡々としているのに妙に柔らかな響きを帯びていた。それは本人が意図してのことなのか否か、またユキを少しばかり混乱させる。
なんだ、なんで、だって、これじゃほんとに…
「…っ、ン」
羽の付け根にかかる吐息に、ユキはふる、と身を震わせる。先程自分を支えるために取られ、そのままになった手が、背中に感じるヤツの温度が、酷く熱く感じてしまう。
頭が、おかしくなりそうだと思った。
「もっ、いいだろ、抜けよ…」
「は?なんで」
「てめぇの性欲処理と俺のメシは済んだろうが。」
「…まさか、一回だけで終わりだなんて思ってる?」
「はぁ? …ッ! アッ!?」
ズン!と突き上げるような衝撃に、ユキはそれ以上の発言を阻まれた。
「私はまだまだ物足りないし、ユキももっと、食べれるでしょう?」
「はッ、あ、あ゛ッ!? ッ!」
取っていた手を押さえつけるものに変え、シグレが小刻みに腰を動かす。慣れることのない快楽に、ユキの口からは堪えようとしても抑えきれない声が漏れる。
一度だけで終わり、なんて、今日の行為がそういうものでないことを、ユキはシグレに言われるまでもなく分かっていた。
ユキは悪魔だ。悪魔は人を…人の血肉と、ひいては人の欲を餌にする。大事な自分の食料を認識できない生き物などいない。当然ユキも、シグレの考えていることまでは分からなくとも、自分に向けられている欲は“視えて”いた。
だからこそ、逃げなければいけなかった。この状況は凄くマズい。
「あッ待っ…ッ…待、て、待てッ、て、なァ…っ」
「ん?」
本気の抵抗は出来ない。鎖は見えずとも、使い魔が主に歯向かうことは許されない。
「っ…い、つもどお、り…のむ、から…」
「……」
「くち、で! する、から…、ッ、…抜、て」
事務的な奉仕と交接とじゃあ、抱く欲の大きさも吐き出される熱の濃さも違う。頼むからいつもので手を打ってくれよ。今ならまだ間に合うから。と気持ちを込めて、身も世もなくユキは請うた。それだって充分屈辱的だが、このまま行為を続けられるよりよっぽどいい。そもそもどうして自分などにこれ程の情を向けてくるのか甚だ疑問だが、この男の奇人変人ぶりは今に始まったことじゃない。考えたって仕方がない。
とりあえず今は一旦止まってくれ。そう思い、口にした譲歩案、だったのだが、
「ッ!!? ……ぇ」
ユキの全身がざわりと総毛立った。目にした光景に、思わず我が目を疑った。
なぜなら、今まさに『落ち着け』と、そう願っていたシグレの欲が、あろうことか逆に、ユキの願いに反して、倍にも近い大きさに膨れ上がってしまったのだ。
ハァ、とシグレが息を吐く。それは、苛立ちのような、呆れのような、加えて何かに堪えるような、そしてそれを隠そうともしない、そんな露骨な溜め息だった。
「…魅力的なお誘いだけど」
「あ…ッ、な、ンぅッ…で」
「今は…これ以上の魅力はないかな。」
───この“目”がなくたって確かに分かる。
明らかな興奮を滲ませた声。主張を大きくする中の熱。ぎらつく瞳。上がる呼吸。
あ。だめだ。
こいつの向ける、欲に酔う────────。
「ぁ、あ、あ゛っ、や」
そこからはもう止まらなかった。
再開された律動。もはや無意味な押し問答などする気はないぞと言わんばかりに、逃げようとする身体を引き寄せられ、咎めるように、耳の尖りをがり、と噛まれた。
「ひぎ…っ!」
皮膚に歯が食い込む程に強く噛まれ、痛みにユキの身体が跳ねる。一瞬、躾か仕置きの折檻かとも思ったが、続けて降りていった唇に、羽の付け根に舌を這わされ、今度は痛みと全く違う感覚に、ユキは大仰に身体を仰け反らした。
「───ッあ!?」
今日、生まれて初めてそこを触れられ、自分でも知りえなかった敏感な場所を、前戯の際にもお願いだからやめて欲しいと懇願したのに、それをすっかり欲情しきった人間の、熱い舌で嬲られる。
びくん、と戦慄く体が震えた。ユキの中で何かが弾けた。
「あれ、“射精”はしないものだと思ったけど…」
「っ…、っ──?」
ユキ自身、自分でも何が起きたか分からず、目を見開きながら、ハ、ハ、と荒い呼吸を零す。人ではないが、少なくとも見た目はまったく人と同じ作りの身体。その中心から、白濁の粘液が漏れ出ていた。
「あぁ、でも生殖機能がないからかな。やっぱり精液とは違うみたい。」
シグレが指で掬うと、人間のそれとは明らかに違う、仄かに甘い香りが鼻腔をついた。成分は自分が作ったクッキーだろうか。なんてことを考えながら、眼下で何やらショックを受けてる様子の悪魔を眺め、シグレはフ…と熱の篭った息を零す。
はくはくと必死に呼吸を試み上下する背。
その背を抱くように引き寄せ抽挿を深くすると、いやだと身を捩り首を振られた。
戯れに尻尾を撫で上げれば面白いほどに全身が跳ねる。噛んで。舐めて。擦って。食んで。付け根をとんとんとノックすると、ガクガクと引攣れを起こし、また謎の体液を迸らせた。
これ以上ない程見開かれた目からは、ぼろぼろと大粒の涙が零れる……
そのどれもがシグレの目には美しく見えた。
目の前の悪魔がよく言うように、自分はどうやら「頭がおかしい」らしいと、シグレも思う。─────この悪魔を、
『穢したい』
なんて
「あッ、っも、もぉ、さわんなっ、だすなッ、───ッ!ひ、ンぅぅッ」
狂ったように身悶え逃れようとするどろどろの肢体は、嫌でも更なる興奮を煽る。体よりも尚、涙やら諸々の体液で散々なことになっている顔に、シグレは目を奪われて、逸らせない。
───最初に目にしたその時から、ぐちゃぐちゃにしたくてたまらなかった。
悪魔のくせに驚くほど、曇りも翳りもない瞳を。
「ッも、いらないっ…はいらな、っ、あぁ゛あッ!おかひ、へんっ、なる…ッ」
「なっていいよ。」
「や、やァ…っハ、うぅ゛───っ」
聖職者として、以前に、祓魔師として、人として、
あってはならない感情だとは思う。元より倫理や大義名分など表面上繕ってるだけに過ぎないが、これが堕落だというのなら、やはり彼も等しく、悪魔なのだろう。
「っ、──…?ぁ、ハハ…、ユキ」
もっとも傍から見ればこの関係、どっちが悪魔か分かりはしないが。
「ヒトガタ…ちょっと解けかけてるよ。」
「ふぁ、ぁッ…っ、──…?」
「そんなにワケわかんなくなっちゃうくらい、気持ちよかった?」
自分の変異に気づいてないのか、そうシグレに言われても、ユキは何を言われたのかすら分からないという顔で、ぼんやりシグレを見上げていた。
行為に没頭していてシグレもすぐには気づかなかったが。見ると、かろうじて人の形は保っているものの、その背で何よりも存在を主張していた黒い翼は色かたちを変え、まるで鳥のような大きいそれに、翼以外にも彼の髪の色と同じ黄金色の、羽毛のようなものがその体をうっすらと覆っていた。シグレが掴んでいた尻尾も先端に房のような毛が生えケモノじみたものに。爪は何やら鉤のような形に変わり、…そっちはちょっと、爪を立てられた時に痛そうだなと、シグレは呑気に思ったりした。
悪魔は人を惑わす為、基本的には人と同じ形をとるが、本来の姿は別にある。それは、まず滅多に人目に触れないであろう筈のものだが、それすら維持出来なくなる程に…、そう思うだけで、シグレの口角は愉悦に上がった。
獣姦の趣味は断じてないが、これはこれで、とバカなことを考えていたシグレは、そこで景色がぐるんと一転、自分が押し倒されたことに驚いた。
「…ユキ?」
落ちこぼれ悪魔くんの反撃か?
と思い、見上げると、ぐるる…と唸り声を上げながら牙を向き、今にも目の前の獲物を喰らわんばかりに、自分を押さえつける悪魔がいた。ぽたぽたと口端から零れ落ちる唾液に、フーッフーッと荒い息づかいが漏れる。やってることは実に悪魔らしいのだが、その瞳は何やらすっかり、熱と欲に溶けきっていた。
「…もしかしてだけど、なんかちょっと、酔っ払ってる?」
上気した頬にそっと触れると、険しそうな顔をしながらも、その目が気持ちよさげに、恍惚と細まる。うっすらと生えた羽毛は毛羽立ち、ユキの体をぶるりと震わせた。そう、今のユキの状態は、まさに酩酊者のそれだった。
…正確には、“栄養過多”による“消化不良”…といったところだろうが。
それもその筈。シグレも分かっていたことではあるが、ユキは元々、シグレに会うまでは食事らしい食事を摂ることなく生きてきた。それが一変、シグレを主に持ってからは、多少強引といえど安定した食事が摂れるようになり…そこまではよかった。極めて例外ではあるが、本来必要な食事を摂らずにそれまで生きてこられたユキにとって、食事というものは未だに慣れず、過ぎたる栄養は毒にもなりえた。まして、シグレのように力のある人間は、それだけで常人とは比べ物にならないエネルギーをその身に宿し、放出するのだ。更には性交によって齎される欲の量も計り知れず。つまりは何が言いたいかと言うと、ユキの中ですっかり超えてしまったのだ。
『許容量』というものを。
「私を食べたい?」
だからあれ程待って欲しいと言ったのに。というのは理性を飛ばす直前、ユキが思ったことだが
「いいよ。」
「…!?」
不敵に笑みを浮かべるシグレに、ユキの目が、零れんばかりに見開かれる。思いもかけなかった主からのお許しに、ユキの体は硬直し、ハッ、ハッ、と吐くだけの呼吸は荒く、ない筈の心臓が、バクバクと脈打つのを感じた気がした。
「いいよ。」
正面から目を見据え、再度放たれた甘い囁きに、ブツン、と、ユキの中で、それまで抑え込んでいた何かが切れる。
シグレを押さえつける手に力がこもる。尖った鉤爪がカソック越しに腕に食い込み、ポタ、と口からはまた涎が零れ、シグレの頬を伝い落ちた。体の奥底から湧き上がる奔流のような興奮を、鎮める術をユキは知らない。頭の中が真っ白で、抗えない本能に、心はどうしようもなく目の前の、自分にそれら全てを教え与えた男を求めて─────
露わになった本能が言葉通りに牙を剥く。
無抵抗なシグレに、その喉元目掛け、ユキの牙が勢いよく突き立てられようとした、その時、
バチンッ!!
「ぎゃうッ───!?」
「え…」
突然の炸裂音と悲鳴。それから、どさりと崩れ落ちたユキに、シグレはぽかんと口を開けた。
「あ、結界…」
主に噛みつこうとした使い魔の行動を、契約が『違反』とみなしたのだ。
…まあ実際、それが発動していなければ、シグレは今頃人としての生を終えていたかもしれないが。
胸の上できゅー…と目を回し気絶してしまった悪魔を前に、シグレは暫し呆気に取られ、それから自分でも気づかぬうちにクスリと笑い「あーあ」と自嘲の溜め息を落とす。
「本気でくれてもよかった…なんて、協会の連中が知ったら大怒りだろうな。」
まあそんなことはどうでいいが。
自分はつくづく、『聖職者』なんて向いていないとシグレは思う。
────悪魔が悪魔たる根源を、君は知っているだろうか。
彼らは何も、この世に存在を成した時からその身に悪を宿すわけではない。
水は方円の器に随う。
毒を食む者は、故にその身を毒に、侵されてゆくのだ。
「立派な悪魔になれたら私のおかげだね、ユキ。」
新雪のようにまっさらな、穢れを知らない君を堕す。
あぁ、まったく
どっちが悪魔か分かりゃしない。